NORIEIの新たな挑戦
取り扱いをはじめて約一年ほど。
着々と当店の足元を浸食し始めているシューメーカーNORIEI。
今回で3度目となる受注会後のこの対談。
ディレクター高梨様、そしてNORIEIが持つモノ作りに対する哲学に聞き入ってしまいました。
排他的にならないその姿勢と、信念を持ったモノ作りが、僕らを含め多くの方を魅了しているのでしょう。
また2019SSからは新型のローファーがリリース。
新たな挑戦に期待が高まります。
・3度目のNORIEI受注会
中島:今回3回目のイベントということで、ありがたいことにNORIEI目当てで来てくださる方とか、
二足目っていう方がたくさんいらっしゃったわけですけど、
回数重ねてみてどう感じてらっしゃいますか?
高梨:そうですね、3回目の今回は履いて来てくださってる方をよく見かけましたよね。
前々回の1回目、2017AWからdoo-bopさんでの取り扱いが始まって、
おそらく皆さん最初はどんな靴なんやろってちょっと疑いの目もあったと思うんです。
中島:どうしてもね、新参者はね。
高梨:はい、でも中にはきちんと調べて来てくださる方もいて。
どんなブランドなのかを知ってもらって、そのタイミングでオーダー会っていう形でさせて頂きましたよね。
そこでまず“NORIEIはこういう靴です”って伝えることができて、興味を持ってくださった方が買っていただいて。
やっぱりそういうのはイベントの告知であったりとか、
インスタグラムでのスタイリングの提案だったり、色々なところで取り入れて頂いてるので、
お客様にも気にして頂けたのかなと。
高梨:2回目、前回の10月は抜粋してやったんですけども、新型のローファーもおかげさまで気にして頂いて、
じゃあローファー待ちでっていうお客様もいる中での今回の3回目。
さっきも言ったんですけど、履いて来てくださる方がいるっていうことがまず単純に嬉しくて。
履いた上で、良かったから2足目を見に来たって言ってくださる方が多かったんですよね。
僕もそうですけど、作成者であり代表の酒井の理想が『1足目を気に入って、2足目を買って頂く』ことなので。
1足目を買って頂くことももちろんありがたいことですし、嬉しいですけど、
2足目を買って頂けるっていうのは、履いて良かったからまた選ぼっていう答えがそこに出てるっていうか。
それがこの一年でちょっと見えてきたかなと思います。
中島:この一年で確実にファンが増えたでしょうね。
・新型ローファーの制作にあたって
高梨:靴の場合って毎シーズン、ニューモデルをリリースして、新しいことをやってっていうよりは、
変わらないことへの挑戦なんです。
同じものをしっかり提案して、長く履いてもらった上で次の一足を選んでもらいたいと思っています。
とはいいつつ今回ローファーをリリースするということで凄く反響をいただきまして。
前回以上にdoo-bopさんに初めてこられた方が多かったですよね。奈良や三重といった遠方からも。
NORIEIのイベントのために来てくださったことは本当に光栄なことでしたね。
そういう方からもローファーっていうお声が多かったですけれど、
やっぱりフィッティングっていう部分に関して、
既成靴なかでも(足の形に)合う合わないがある中でスリッポン(紐が無い為、微調整しにくい)っていう形は特に難しいので、
合わなかった方には申し訳ないですっていう気持ちが残るのが正直なところです。
ですけど、「こっちの方が合うね」っていう感じで、
そこからDERBY やBALMORALをオーダーして頂けたことが嬉しかったです。
「合わないからやめる」、「ローファーじゃないからやめる」で終わらなかったのが
今後に繋がっていくんじゃないかなと感じました。
中島:今ローファーの話が出たところでなんなんですけどね、
今回(ローファーで)コードバンを使用したものもあるんですけど、クードゥーを使った理由って何かあるんですか?
たまに使うブランドは見るんですけど、珍しい革じゃないですか。
高梨:第一の理由としては、しっかりと厚みがあるといった部分と、靴にしたときのボリューム感です。
それと知ってる方は知ってると思うんですけど、もともと日本にはいない動物なので、
「クードゥーって何?」っていうのがちょっと面白いというか。
で、実際にものとしては、僕らがよく目にするクードゥーの表側は傷が多いもので、
それがクードゥーの革のセールスポイントでもあるんですけど、実は裏返せばこれだけ綺麗な革なんですね。
ただ通常のスウェードみたいな綺麗さじゃなくて、
ちょっと独特な風合いを残しつつのスウェード感ってところがNORIEIらしい革だなと思って今回使用しました。
もちろん代名詞でもあるコードバンでの展開はします、
でももう少し厚みのあるものの方が表現の仕方としてらしさが出るのではないかってことでのクードゥーですね。
NORIEIは奇をてらったモノを作るっていうよりは、オーセンティックなデザインを『らしい革』で表現するっていうのが根底にあるので。
そういう意味ではローファーでボリュームを出そうとするとソールだったり、コバで余韻を持たすっていうのが1つなんですけど、
そうなると履き心地であったりとか、価格っていう面でマイナス要素が出てしまうので、そこをどう抑えるかっていうのを考えました。
デザイン面でいうと武骨でカジュアルなイメージがあると思うんですけど、
バランスや作りの綺麗さにこだわりがあって、例えば、この部分のシームをなくせば上品に見えるだろうとか。
中島:ほんまや。基本はセンターにシームがあるもんね。
高梨:これはサイドで繋いでるんですね。
中島:あぁ、なるほどね。
高梨:横で繋いで、後ろからみえる姿にシームがないと綺麗に見えるよねっていう僕らなりの表現として、
これまでのNORIEIのモデルにはない仕様を取り入れてみました。
中島:逆に作りに関して、こだわった部分ってどのへんなんですか?
高梨:むちゃくちゃ難しいんですけど、カウンターも普段使ってるものより小さくて、柔らかいものを使っています。
要はセンターで切るとパターンがここで繋ぐことを考えてるので、係数値的に計算しやすくて作りやすいんですけど、
横で繋ぐとここは一枚のものを立体化させていくっていうところの、数字的なパターンの難しさがあって、これを凄く修正しましたね。
もちろん木型の修正も無茶苦茶してるんですけど、その木型ができて、次にアッパーを作るっていうときのパターン修正に苦労しました。
平面だったものを立体的におこして、そこから初めて足を入れて見えてくるので。
今まではここで切って、パターンするっていうある程度のイメージできてたんですけど、
今回は普段やらない方法をとったので、作ってみてここの数値が違うっていうことが多々ありました。
やっぱり正解が見えない中での戦いなので、もちろん僕も含めて、
スタッフで足入れしてその中でそれぞれの足にどう合うのかって考えながら修正していくんです。
(ローファーは)人の足型を選んでしまう形なのでって言ってやめてしまうと妥協じゃないですか。
「これくらいでいいや」って終わらせるとサンプルもそれほど作らずに済むんでしょうけど、お客様からお金を頂くものなので、
やっぱりその中でも「こうしたらよくなるんじゃないか、いやこうしたほうが良い」っていう風に、
ちょっとしたことですけど意味はあるんじゃないかなと。
例えばベルトの部分ですと、裏にステッチを入れて留めた方がしっかり留まるんですよね。
ただ、留めてしまうと甲の部分にステッチが当たって痛かったり、密着したりするので、ここにステッチは入れたくなくて。
なのでサンプルを作るたびにサイドのステッチの入れ方を変えて、動きを抑えたり、甲にストレスのないよう調整しました。
もともとNORIEIは“足にあたる部分のステッチを一本でも減らして足へのストレスを減らす”っていう考え方なので、ここは拘りました。
縫い合わさってる部分ってどうしても痛かったりだとか不快に感じてしまうので、
極力包まれてホールド感の強い靴を作ろうとするんですけど、それが難しいところです。
あとはベルトの位置や距離でバランスで見た目のバランスを取っています。
中島:ヒールの深さも2ミリほど修正したんですか?
高梨:そうですね、こっちのサンプルだとちょっとかかとの上で収まりが弱いので2ミリ高くしました。
とはいいつつ、これも個人差があって何とも言えないんですけども。
これ以上深くすると踝(くるぶし)にあたる恐れもあるのでどこまでもっていくのか、
要は深く(高く)すれば収まりは良くなるけど、踝にあたってくる人もいるんです。
あとは足入れした時のバランスで、ローファーだったらソックスや素足が見えるラインの深さも考えなきゃいけないので、
全てのことを念頭に置いて作ると正直永遠にサンプルを作り続けなきゃいけないですし、ゴールってないんじゃないかなって。
もちろん一つ形として発表はしてるんですけど、時間さえあれば永遠にサンプル作りを続けている気がしますし、永遠のテーマだと思います。
中島:評価頂けたら嬉しいですけどねぇ。
でも今回結構なお客さんが見て下さってたように思いますけど。
(ローファーは)次の春夏からですもんね?
高梨:はい、次の2019春夏からですね。
今回実際にオーダー頂いて、その方はばっちり足型に合ってて気持ちいいっていう風に言って頂けました。
ただもちろん中には合わない方もいらっしゃるとは思うんですけど、その方には「申し訳ないです」って終わるんじゃなくて、
オプションとしてインソールの提案だったり、これはまだ正式には何とも言えないんですけど、
ラストの展開を広げるっていうのも一つ考え方やと思うので。
ローファーのサイズをアジャストする方法を、今回のお客さんの結果をもとにまた話し合って次の提案に繋げたいと思ってます。
中島:なかなか難しいですね。
高梨:難しいですね(笑)
今回はお客さんが足入れする度にドキドキしてましたね。
ある程度DERBY やBALMORALだったらお客さんの履いてる靴とか、脱いだ足をみたら合う合わないって経験値として分かるんですけど。
ローファーに関しては初めてやるんで、足を入れたときに皆さんがどう思うんだろって気になりましたよね(笑)
中島:今回のイベントのためと言ったらなんですけど、これだけのサンプルを作って、良い準備をして下さってるので、
僕らも次の春夏で(ローファーを)展開させて頂こうと思います。
高梨:ありがとうございます。
今回新しいモデルをやるってことで多くの反響があったというのは有難いことなんですけど、
だからといって毎シーズン必ず新モデルができるかっていったらそんなに簡単なモノ作りではないので、
もしかしたらお客さんも新しいモデル、新しいモデルていう風に期待されるかもしれないんですけど、
時間をかけて、こだわって作らせていただいてますので、次のモデルっていうのは長い目で見ていただけたらと思います。
中島:それは勿論です。
これからも良いモノ作りを続けて下さい。
今回もありがとうございました。
高梨:こちらこそありがとうございました。