Top > Column

ink:これまでとこれから

 

その芸術性に富んだ洋服で、見る人を楽しませてくれる『ink』。

展示会という形でのコレクション発表は今回で一旦終了ということで、

デザイナーの岡田さんにお話を伺いました。

 

 

DSCF4833

 

 

中島:今回で展示会というスタイルは一旦最後ということで、

そうなるに至った経緯といいますか、これまでのinkのこととか、その辺りを聞かせてもらえますか?

 

岡田:そうですね、僕らはリメイクのパイオニアと呼ばれることが多くて、

確かにリメイクを始めたのは早い方でした。

同業者も少なかったので、始めた頃はリメイクの資材となるヴィンテージは豊富にあったんです。

 

中島:選び放題てことやね。

 

岡田:最初は『50年代の資材だけ』とかもできたんですけど、時が経つにつれてリメイクブランドをやるところが増えて、

資材の争奪戦になったんです。新品のブランドだったのにリメイクに走るブランドも増えてきて。

 

中島:後追いが出てきたと。

 

岡田:今回この決断をしたのは、リメイクをやるブランドが増えて、資材の確保が難しくなり壁にぶち当たってしまったことが大きいです。

前々からいつかこうなるとは思っていたんですけど、「こんなに早く来るか」というところはあって。

いつか展示会をなくして別の見せ方をできたらとは思っていましたが、それが前倒しになった、というのが現状です。

ただ僕も全然後ろ向きではなくて、前向きで、今以上にこだわったクリエイションもできるだろうし、資材も今僕がピックもしてるんですけど、

資材も卸先も探して、新しい資材が見つけられるかもしれないし、アメリカとか海外に行って。

どっちかっていうとその方が楽しいだろうなって。

 

中島:岡田さん自身がね。それはええな。

 

岡田:売上とかは絶対維持しないとダメなんですけど、それで今みたいにストレス感じながらやっていくのも、

せっかく好きなことを仕事にして賛同してくれる人もいるのに、なんか違うなと思ったんです。

ちょうどコロナのタイミングで考える時間が増えて、まず一番最初にやったのが店のセールをやめようって。

 

中島:ほぉ。

 

岡田:僕ら一点一点魂込めて作ってるし、裁断だけじゃなくて資材のピックも何千枚の中から選んできて、それを組み合わせてやってるものを、

クライアントさんは買ってもらってるからいいと思うけど、僕らがそれ(セール)をやってまうのは違うなと思って。

inkというものの価値を上げたいというのが根幹にあって、「それをするには何か」というのを、この展示会が終わったときから考え出して、

今付き合いのあるクライアントさんや、実際に買ってくださるお客さんの持ってるinkの価値が上がるように持っていけたらなと漠然と思ってます。

 

中島:やっぱすごいなぁ。

 

岡田:やってもらったことは絶対返したいんで、やってもらうだけはすごく嫌なんですよ。

いろいろお世話になってるのに、それが返せてるかって言ったら全然返せてないなって。

納品も資材が遅れて、僕らの作業も挟んだらどんどん遅れていく中で、それでも待ってくれるとこもあるし。

そこをちゃんと返していきたいというのが根本ですね。

ただどんどん価値を上げて、値段上げて、買う人を選ぶブランドにはなりたくなくて。

製作にかかっただけの上代で、好きな人もちゃんと買えてっていうブランドを維持しながら。

ただ数量は、全部僕の手を通して作るんで、そこまでは作れないから、

年間通して楽しみにしてもらえるような作品にできたらもっと面白いのかなって思いますね。

 

 

DSCF4820

 

 

中島:やっぱりちょっと今まで会ったデザイナーと違うな。

売れるだけでは満足いかへん、いい意味でね。向上心が強いんやろうね、人想いというか。

 

岡田:お金に欲がないんですよ。僕はあんまり。

 

中島:それは何となく感じる。金の事ほぼ言わへんもんね。

 

岡田:そうですね、絶対食わさなあかんから最低限はやるんですけど、なんかこう『金持ちになりたい』みたいなのはなくて。

23歳のころは給料5万とかでやってたんですけど、めちゃくちや貧乏でしたけどすごく充実してたんで。

 

中島:うんうん。

 

岡田:僕20代のころとかほぼ貧乏やったんで、苦じゃないんですよね、お金がないっていうのが。

それで来てるから、嫁からしたらそらもっと稼いだ方が家庭的には良いんですけど、そこよりももっと違うところが僕の芯としてあって。

実際自分の服着て意気揚々と歩いてる人を見たら「おっ!」て思うし、それはもう20歳のころに洋服作ってるときからその感覚は変わらなくて。

こうやって受注会やらしてもらって、実際お客さんが来て、inkの服着てオーダーしてくれるって人にはなんかしてあげられへんかなって。

やっぱ思ってしまいますね。モノを作るのがすごく好きなんで。

 

中島:やっぱ好きですか?

 

岡田:めちゃめちゃ好きですね。例えばガンプラとかも好きでしたし、何かしらモノを作るのはすごく好き。

僕的には今洋服を作ってるんですけど、感覚的には『洋服で造形物をつくる』というか。そういう感覚でやってるんで。

だから、自分の着られる服はそんなにないんですけど、ただそれを良いと思って着てくれてる人を見たら、

こんな風に着てくれるんや、そうやって合わせるんやとか、そういう発見があって嬉しいんです。

ずっと着てくれてボロボロになってるのを見ると「凄いな!」ってなるし、「ここまで着てくれたんや、全然直すよ」とか、お金も貰わないでリペアしてあげたりとか。

けどそういうのが楽しくて。「これでまた一年くらい穿けるんちゃう」って。また破れたら言ってよって。

最初はinkのパンツだったのが、その人がどんどん穿きつぶしていくと、『その人のパンツ』になるじゃないですか。それが僕はすごく良いなって思うんですよ。

 

中島:なるほどね~。

 

岡田:なんか昔ファッション雑誌の特集ページで取り上げてもらったときに、サブタイトルみたいなのないですかって言われて。

 

中島:『inkといえば』みたいな?

 

岡田:はい。で、「どうなりたいとか、こういう風にしていきたいっていうのでもいいんですけど」って言われて、

僕「LEVI’Sみたいになりたい」って言ったんですよ。

 

中島:どういう意味、それは?

 

岡田:『どの時代でも定番で、どの時代でも存在してるブランド』だと思ってるんですよ。

ファッションって流行じゃないですか、流行が過ぎたらもう着られへんってなって、売ったりとか。

そういうのじゃなくて、LEVI’Sのジーパン一本持ってたら、何が流行ろうとジーパン穿くやろうし、ボロボロになってきたらカスタムして、

っていうのが僕の中で『これぞ洋服』なんかなって思うんですよね。だからうちのも左右されない、流行に。

それで僕はあまり今の洋服を見ない、情報を入れないっていうのもあって。

毎シーズ展示会はやってるんですけど、僕なりにどの時代でも着られるようなアイテムを、一応出してるつもりはあって。

 

中島:そうなんやね~。

 

岡田:流行のものを作って、(流行が)過ぎたら価値が下がってっていうのは寂しいなと思って。

だったら流行とは真逆というか、そこは追わずにうちはうちのやり方で物を作っていれば、そこに左右されることはないじゃないですか。

なので一応そういうやり方はしてるかな。

 

 

 

DSCF4849

 

 

中島:最初からそういう?やっぱこう10何年やる中で右往左往しながら?

 

岡田:右往左往しましたね。実は10年目で一回新品ブランドやったんですよ(笑)

 

中島:うそやん!(笑)

 

岡田:はい。inkと別で『SPLOTCH of ink』っていうのを作って、

インクのしぶきって意味なんですけど、それは完全に新品なんですよ。

 

中島:それは資材がということ?

 

岡田:はい、もう生地から作って。ただinkの雰囲気は残した、デニムの加工であったりとか。

 

中島:へぇ~。

 

岡田:そういうキャッチーで、窓口になればいいかなってブランドを作ったんです。

でも一発目は正直結構オーダーついたんですけど、二発目以降はお客さんがそのブランドネームで判断するようになって。

従来のinkのネームとSPLOTCHのネームで、「これ(SPLOTCH)良いけどリメイクじゃないんや」って弾かれるんですよ。

 

中島:モノの良し悪しじゃないところで判断されてしまうんやね。

 

岡田:そうです。『ink=リメイク』っていう固定観念が出来上がってしまってたんですよね、お客様にも。

キャップとかは買いやすかったからまだ売れたんですけど、洋服になったらタグで判断されるようになって。

3シーズン目くらいでそれをクライアントさんに言われて。

「カッコいいし拘ってるのは分かるんだけど、inkといえばリメイクだから、こっちは売れにくいんだ」って言われて。

それであえなく2年で辞めました。

 

中島:複雑やねえ。

 

岡田:だから良くも悪くも首絞められましたね。僕自身『リメイク』に左右されてしまったっていうのはありました。

 

中島:自身の表現方法としての一つは出来なかったというか、色が付きすぎてて。

 

岡田:そうそう。

 

中島:でもそう言ってくれはったことも今となっては感謝ですよね。そういうことがあったんやなぁ。

 

岡田:はい。スパッとそれ(SPLOTCH)はもうやめようと。

次のシーズンから原点回帰じゃないけど、また拘ったリメイクに力を入れるようになって、また売り上げも取れて。

 

中島:ちょっと聞きたかったことがあって、私事なんですけどね。

岡田さんがモノ作るときにね、どういうアイデアで形になったんかなっていうのが余りにも多いんですよ。

どういうアンテナの張り方してんのかなって、モノを作るときに。

この『CRACK』でも「割れた鏡から着想を得て」とか、これ最初見たとき頭おかしいなぁと思って。

 

岡田:ははは(笑)

 

中島:本当に。これをTシャツのネタにしようとするんやと思って。

 

岡田:なんですかね。パッと…

 

中島:出んの?

 

岡田:出るときと、まあ正直後付けのときもあるんですけど。

 

中島:まぁそれは勿論。

 

岡田:けどそれ(CRACK)はパッと出たタイプです。

 

中島:鏡を見てるときにパッと出たんですか?それともTシャツを切ってるときに?

 

岡田:いや、まずパターンを作るんで、ドルマンのTシャツのパターンを広げて、どう切ろうかなって。

 

中島:どうハサミ入れようかってね。それで?

 

岡田:それで試しに色々線を入れていくんですよ。「これも違う、あれも違う」って感じで。

で、ずっと考えて出たのが、何かちょっとひび割れっぽくなったら面白いなって。

それで線を引いてパターン化してみたら、見えないこともないなと思って、『CRACK』って名前に。

そのときくらいから、『何かに見える切り替え』ってありやなと思って。このひび割れだったりとか、他にも鳥の羽とか。

こういうのを推していこうかなと思ってて。次やりたいなと思ってるのは蝶の羽っぽく切り替えできないかなとか。

切り替えはいつもフリーハンドで入れるんですよ。用尺だけ測って、23cmと21cmの間やったらどういう線が入るっていうのを測って、はめていくんですよ。

テンテンテンテンっと打って、それを曲げて入れるのか…。

 

 

DSCF4915

 

 

中島:どういうこと?曲げて入れるって。

 

岡田:カーブです。曲線を効かせる。で、曲線を効かせたら全部曲線でないとバランスが悪くなるんですよ。

 

中島:そっか。直線やったら直線ばっかりでいった方がええんや。

これ(CRACK)やったら直線ばっかりやもんね。

 

岡田:で、どっちか決めて、何かに見えるようにする。

 

中島:なるほど、それが動物の何かの部分なのか、ガラスなのか…。

 

岡田:今扱ってもらってる『T-REVERSE』も、後ろダイヤに切ったりとか。

 

中島:はいはい。

 

岡田:ただ切り替えるんじゃなくて、何かが浮き出てる方が面白いかなぁって。

 

中島:すごいなぁ。

 

岡田:それが全然すごいかどうかは分からないですけど(笑)

 

中島:いやでも、「何でこんなん思い付くのか、何でこのアイデア出るのかな」というのが、岡田さんの作るモノはすごく多いんですよね。

普通のデザイナーってやっぱり一番に素材と仕入れと、あと売れるか売れないかを見るんやけど、さっき聞いた中で意外やったんが、

自分であんまり着ないじゃないですか。売れると思って作ってないでしょ。

 

岡田:そうですね(笑)

 

中島:カッコいいかどうかってこと?どういう基準?

 

岡田:カッコいいか悪いかは重要です、一番。

 

中島:そうやんねぇ。それが大事やねやっぱり。

 

岡田:着る前に襟のところを持って、ダラーンとさせてるときとか、

カッコいい服って、その辺にかけてあるだけでもカッコいいんですよ。

 

中島:絵になるんや。

 

岡田:はい、フォルムというか。そういうのが凄く好きで。

例えば僕(inkの)モッズコートは着てるんですけど、それ着て歯医者に行ったとき、

コート脱いでハンガーにかけて、パッと見たときに「俺良いもん作ったな」って(笑)

ちょっと思う瞬間はあるんですよね。

 

中島:思うんや。客観的に見たときにね。

 

岡田:だからそれは、着てカッコいいというより、見てカッコいい。

 

中島:服というより作品なんやなぁ。

 

岡田:実はアーティストっていうものに憧れはすごくあったんですよ。

けど、僕の周りのアーティストの人とか群を抜いてすごいんで、それを見てたら自分は全然違うと思って。

 

中島:岡田さんでもそう思ったんや。

 

岡田:それなら洋服としてブランドを立てて、生業にするのが正解やなって。

けどその中でも、時々衝動に駆られてこの前のフラッグ作ったりとか。

 

中島:はいはい。

 

岡田:ああいうのはすごく好きなんで、作っちゃうんですけど。

けど、アーティストじゃないなって。なれないなって。

 

中島:自分でそう思うんや。

 

岡田:思いますね。自分の周りの人は、全然売れてない人から売れてる人までいるんですけど、

全員特化してるというか、着いていけないなって思うんで。

 

中島:出るとこがバコンって出てるんや。

 

岡田:はい、その他は全然ダメでも、出るところは半端なく出てるんで、それ見たらもう勝たれへんなって。

そういうことに早く気付けたんで、展示会ベースのブランドとしてやれたかなと。

あとタクヤ君(HEALTHのデザイナー)に出会えたことも大きかったですね。

 

中島:それはやっぱりでかい?

 

岡田:そうですね。タクヤ君は僕がリメイクやってるの知ってたんですよね。

たまたま道端でばったり会ったときに、「HEALTHでリメイクやりたいんやけど手伝ってくれへん?」って言われて(笑)

「どんなんやりたいん?」って聞いたら、アメリカで色々買ってきた資材あるからこれで何かできないかなって。

で、タクヤ君に作ってるもの見せたら、「これいけると思うから展示会やらへん?」って言われて。

その時僕は「展示会って何?」って感じやったんですけど(笑)

 

中島:展示会っていうものも知らんかったんや!(笑)

 

岡田:知らなかったんですよ(笑)

それでその、HEALTHのお客さんが大勢来てくれて、結構みんな大絶賛してくれたんです。

一発目で全然食えるくらいの感覚で終わって、「これで食べていけそう」って。

 

中島:いい評価してもらってたんや。最初から。でもタクヤ君はそれ見抜いとったんちゃう?

そうじゃなかったら街中で会ってパッと一緒にやろうとはならへんよ。

 

岡田:そうだったんですかね。

けどなんかすごくいいタイミングやったんで、あれよあれよという間に。

 

 

DSCF4854

 

 

中島:すごいなぁ、そんなことがあったんや…。

今聞いた中でだいたいの目標は分かったんですけど、最終、自身はどうありたいっていうのはあります?

 

岡田:一生モノは作ってたいなと思うんですよ。

それが洋服なのか、例えば陶芸なのかとか、何でもいいんですけど…。

僕は言葉が下手なんで、作って表現するほうがいいなって。

 

中島:モノで見てくれと。言葉よりも。

 

岡田:うん、その方が向いてるんかなと思うんで。一生ものは作っていきたいっていうのと、

あとは何か人のモチベ―チョンやテンションを上げられるものを作りたいっていうか。

細かい作業もすごく好きなんで、そういうモノをつくれたらなぁって。それは自分のモチベーションにもなるんで。

 

中島:やっぱり作り手でありたい?

 

岡田:そうですね、うん。

 

中島:根っからの性なんやろうね。

 

岡田:そうですね、小っちゃいころからブロックとかめっちゃ好きやったんで。ロボット系とか、粘土でも何か作ったりとか。

振り返れば作ることをずっとやってましたね。何かが自分の手で一つのモノになるのがすごく楽しくて、これをこんな風にできた、とか。

 

中島:なるほどなぁ、分かりました。

最後に、年2回のシーズンコレクションがこれで最後ということで、

お客さんからすると今後どうやってinkの作品を見ることができるか分からないという方もいると思うんで、

そのあたりもいいです?

 

岡田:はい。やってみないと何とも言えないところは正直あって、

ただ今漠然と考えてるのは、まとまった資材をまず僕らが手に入れて、それで一個サンプルを作って見せるとか、

受注じゃなくてこっちの一存で何10枚と作ってしまって、それを見てクライアントさんにはその中からピックしてもらう形とか。

あとは話す機会がもしあれば、店舗さんとの取り組みで、そこだけの物を僕らが持ってる資材で作りましょうかっていう取り組みもできるかなって思ってます。

これから時間もできると思うんで、いろんなクライアントさんに顔出したいなと思ってるし、今日来れたのもいいきっかけやったと思います。

中島さんともしっかり喋ってみたいなっていうのもあったんで。

そういう感じでクライアントさんとお客さんにはずっと、頻繁的に入る商品ではなくなってしまうんですけど、

ここっていうタイミングで入れられるような感じにはしていきたいなと。

 

中島:分かりました。これからもよろしくお願いします。

 

 

落ち着いた様子で、しかし確かに熱を帯びた言葉で、今後についてのお話を聞かせてくれた岡田さん。

inkがこれからどう進化していくのかを想像すると、今から楽しみでなりません。

 

 

 

 

 

 


アーカイブ