MOTO:新作と共作
9月5日と6日、MOTOからお越しいただいた本池 良太さんにお話を伺いました。
今回はこの2020awの新作バッグ、そして水面下で話を進めていた共作アイテムに関して。
1つのアイテムに対してここまでじっくりと語っていただくことはなかなかないので、
とても面白く、興味深い内容となったのではないでしょうか。
最後まで読んでいただけますと幸いです。
中島:今シーズンのコレクションで、春に展示会寄らせていただいたときにね、
1番目に留まったのが新作の『ツールバッグ』だったんですよ。
よろしければこのバッグが出来た経緯っていうのを教えていただいてもよろしいです?
本池:はい、分かりました。
えーっとですね、まずは名前の通り職人が使用する道具、
『ツール』を入れておくためのバッグっていうのがコンセプトにあって。
そもそも今回の秋冬コレクションっていうのが、『職人・クラフトマン』っていうテーマがあるんですね。
なのでそれに対して、職人が使っていた道具入れであったり、エプロンや帽子、カバーオールといった、
職人が身に着けるものを展開しています。
それで基本的には、実際に使っていたバッグをそのまま商品に落とし込んだっていう感じなんですけど。
中島:はいはい。
本池:靴やお財布のメンテナンスをするときに、クリームだったりブラシであったり、
あとはクロスといった諸々の道具を使うんですけど、それらの入れ物、ポーチみたいな感じですよね。
そういったものをMOTOの職人は10年以上前から使用していたんですよね。
そのポーチが原型になっていて、今回新作として出させていただく際にはポーチ、
バッグインバッグや貴重品入れといった使い方だけじゃなく、そのままショルダーの紐を
付けて小さなバッグにもなるようにしたらいいんじゃないかって思ったんですね。
まあお財布入れて、スマホ入れて、ペットボトルとか小っちゃなものが収まれば、今の時代的には十分実用的なので。
それで出来上がったのが今回の『ツールバッグ』です。
中島:ははあ、なるほど~。
このツールバッグね、よく見たらこの引手の部分であったりとか、違う革が使われているように見えるんですけど、
場所によって変えたりしている意図というか、それぞれの革についても説明していただけますか?
本池:かしこまりました。
まずはボディ、本体ですね。この部分の革なんですけど、MOTOのバッグで定番的に使われている
ベジタブルタンニン鞣しのゴートレザーなんですよね。
中島:ベジタブルのゴート。
本池:そうですね、『植物タンニン鞣し』と言われることもあるんですけど、
植物のタンニンで鞣された、例えば牛革の『ヌメ革』とかと同じ鞣し方ですね。
要は味が出やすい、手の油分で色が変化したりとか、酸化して色が濃くなったりとか、
使っていくことで良い風合いになっていくっていうのが、このベジタンの良いところなんですけど。
ただ今回のツールバッグに使われているものは、そのベジタンのゴートをさらにMOTOで手もみ加工をしているんです。
中島:え、手もみ加工?
本池:そうです。
簡単に言うとウォッシュ加工みたいなものですね、デニムで言うワンウォッシュみたいな。
実際水で洗いをかけているわけではないんですけど、手もみで、揉んでいくって感じですね。
よく革ジャンとかで、揉んだら柔らかくなって繊維がほぐれるみたいなのありますよね?
それでシワが良い感じに寄ってくるみたいな。
ちょっとこう、新品のときから風合いが、くたっとしていたり、
シュリンクしていたりとか、良い風合いになっているっていうやつですよね。
自分たちの手で揉んで、あとはハンドダイ、ブラウンとブラックに限るんですけど、
ハケで1点1点塗り込むハンドダイの仕上げも、その2色に関しては行っているんですね。
中島:それっていうのはね、本池さん。
原皮のときにやってるのか、バッグするときにやってるのかどっちなんですか?
本池:実際は革のタンナーさんにもウォッシュをかけていただいているんですが、
その後に自分たちで、さらにその上から加工するんですね、手もみの。
なのでダブルで手間を入れてあるので、この風合いになるんですよね。
通常のゴートレザーってこんなシワが寄ってないんです。
今までの定番のゴートバッグを見ていただいたら分かるかと思うんですけど、
シボはあってもシワは入ってないっていう。
中島:ああ、確かにそうですね。
こんな風に波打ったりはしてないですもんね。
本池:そうなんですよ。比べてみるとだいぶ変わると思うんですけど、
今回のゴートは明らかに新品の状態からシュリンクしているというか、
風合いがもうしっかり出ているような状態になっていますね。
それが今回の新作のゴートレザーで、通称『ダイドウォッシュゴート』、
染めて洗われたゴートみたいな感じですよね、直訳すると。
それを新しいゴートレザーの提案として、まず作らせていただいたのが『ツールバッグ』になります。
中島:はは~。
本池:それがまあボディになりまして、あとはサイドの『摘まみ』みたいな、
ジップを縫ったときの端の処理を綺麗に見せるためにカシメで留めてるんですけど、
そこの革はイタリアのホース、それもベジタブルタンニンの、馬革ですね。
中島:え~っと、それはこのサイドの摘まみ部分と…
あとストラップを通してあるこの部分もそうですかね?
本池:あ、そうですね、ストラップを通す部分も同じホースレザーですね。
これに関しては、MOTOではあまり主力として使われていない革なんですよね、実は。
どちらかというと『MOTOR』っていう、もう1つのレーベルでたまに使用するような馬革なんですけど、
基本的にはすっぴん状態の、『クラフト』って言われる未仕上げのヌメ革で、
使えば使うほど、ず~っと色が濃く変化し続けるんですね、ほとんど真っ黒になるくらいまで。
茶色から始まって、飴色になっていって、ダークブラウン、最後はもう黒っぽくなるっていう。
で、ジップの引手ですね、この部分にはイタリアのカウレザーを使ってるんですが、
それに関してはMOTOのお財布とかでよく使っている、イタリアの『ダブルショルダー』っていう肉厚の革を使用しています。
ぱっと見は結構似てるんですけど、そのダブルショルダーの方が肉厚なので、持ち手にしたときにしっかりした感じが出るんですね。
中島:ああ、確かにこのホースと比べたらだいぶ厚さ違いますね~。
本池:そうなんですよ。なので持ち手はしっかりしていた方が良いので、
安心感がある方がいいっていうことでその牛革を使っていますね。
で、それもやっぱりクラフトで、ベジタブルタンニンで揃えています。
なのでその部分も使うほどに良い感じで色濃く変化していきますよ。
中島:なるほど。
それじゃああとはこのストラップの部分、ここだけ他と比べて毛色が違うというか、
見た目にも違う革が使われていると思うんですけど、この革は何なんですか?
本池:これはですね、イギリスのタンナーなんですけど、『CHARLES・F・STEAD』っていうタンナーさんが作った
クーズーレザーっていう革なんですね。クードゥーとか呼び方は色々あるんですが、『K U D U』ですね。
アフリカに生息する動物なんですけど、ぱっと見は完全に鹿なんですね、角がぐるぐるって渦巻いたような。
なんですけど種類的には牛になるっていう面白い動物です。
でももう見た目は完全に鹿で、革自体も極めて鹿に近いんですね、ディアとかエルクに凄く近い。
それくらい肉厚で、繊維が凄く詰まっていて、かつ柔軟性があって柔らかいという特性があります。
それをその『CHARLES・F・STEAD』っていうタンナーさんが、本来はスウェード使いとして作られたのがこのクーズーなんですね。
床面(スウェード)のこの気持ちよさというか、さらっとした肌触りの、質の良いスウェードを作るために考案された革なんですよ。
なんで本来はスウェードとして使われていることが多いみたいですね、イギリスなんかでは。
中島:なるほどなるほど。
けどMOTOさんってどちらかというと表面を使ってるイメージがあるんですけど、
それってどうしてなんですか?
本池:はい、もともと床面の綺麗さっていうのは感じていたんですけど、
銀面(表面)を見たときに、天然傷ですね野生でついた、それが本当に沢山ついているんです。
それが凄く面白いというか、良い雰囲気で入ってるんですね。また馬とか牛とかとは全然違う細かな傷だったりが。
なのでそれは本当にクーズーだからこそっていう傷で、
他には無いんじゃないかなっていう程特徴的な傷が入ってるんですよ。
それでMOTOとしては、その傷の雰囲気が凄く良いって捉えて、
銀面を主として靴とかお財布を10年くらい前から作っていたんです。
そういうのもあって、基本的にはスウェード使いっていうのはしなくて、
もう銀面中心に、傷を表に出した使い方をしていますね。
それで、柔らかくて水にも強くて、かつ丈夫っていうことで、
身体のラインに沿って馴染む、肩にかけるときに負担にならないというか、
バッグのショルダー部分に凄く向いているんじゃないかってことに気が付いたんですよね。
それで定番のサコッシュにも使われていたんですが、今回もそのツールバッグ作るときに、
紐は絶対クーズーが良いって思ったわけです。
あとそのスウェードの質が良い分、首元にそのストラップが触れた場合でも凄く気持ち良い、
肌に当たっても全然ストレスを感じないっていう長所や、
滑り止め代わりになって肩からずり落ちないっていうこともありますね。
中島:はあ~。それっていうのはこのクーズーならではの大きな特質というか、
それはディアとかだったら伸びやすいとか何か問題があったんですか?
本池:そうですね、実はディアだと今上質なものを探すこと自体なかなか難しくて、
ここ何年も良いエルクとかが手に入らなかったりとか、そういった状況も関係してると思うんですが。
だから昔だったら、使っていたのはエルクだったかもしれないですね。
今そのディアとかエルクの代わりになってるのがクーズーっていう感じに近いかもしれません。
ただエルクとかディアはそんなに傷ががんがん入っていたりはしないので、
だからこそ、クーズーの魅力は銀面の傷も含めてっていう考えですかね。
中島:ここからはこっそりお話していた、AUBERGEとの共作の話になるんですけど、
MOTOさんにエルボーパッチを作って欲しいってお願いしていたじゃないですか。
それで今日いくつかそれ用の革を持って来ていただいてますけど、
さっきの話聞いてると、クーズーが凄く向いてるんじゃないかと思ったんですけどどうです?
『NEST』っていうニット、無染色の、羊の毛そのままの色をしたニットに付けるので、
それに対してこれがいいんじゃないかっていうお勧めの革ってあります?
本池:そうですね、仰る通りクーズーは凄く良いんじゃないですか。
柔らかくて水に強いといった特性があるので、衣類と合わせるのに凄く適していると思いますね。
鹿革も昔、衣類でよく使われていたっていうのもありますし。
機能的な面以外でも、色の発色の渋さというか、クーズーならではのナチュラルなテイストが合うでしょうし。
そしてその傷のある銀面と、スウェードの綺麗さどちらも使えるっていう意味でも、
クーズーが適しているんじゃないかと思いました。
中島:なるほど、エルボーパッチってスウェードのイメージがありますけど、
クーズーやったらMOTOさんみたいに表で使うのも良いんちゃうかってことですね。
本池:そうですね、むしろ表面の方がよりクーズーらしさ、面白さが出ると思うので、
もしMOTOが自分たちでそういうことをするのであれば、表面が中心になるんじゃないですかね。
もちろんスウェード使いも間違いはないんですけど、
よく昔からピッグスウェードとか使われるような場所だと思うんですよね、肘とか膝のパッチって。
大体ピッグかディアか、あとちょっと高級だとラムが使われていたりとか。
でも今回のクーズーっていうのは、完全にイギリス製の高級レザーの1つなので、
実際ラムとかにも引けを取らないレベルっていうふうに自分たちは思っていますね。
やっぱりピッグレザーってどうしても安価なイメージがあるじゃないですか、
そこはもう世界共通で皆さんもご存じだとは思うんですけど。
でもディアスキン、鹿革っていうのはやっぱり結構ハイクラスな方だと認識されていますし、
その中でもそのクーズーっていうのはかなり特殊な革ではあるんですけど、
名門のタンナーが作っているっていうのは1つの良さ、ブランド物みたいな感じですよね。
なのでAUBERGEさんの作る洋服にもはまるんじゃないかと思います。
中島:確かに、はい。
ちなみに色バリエーションとかもあるんですか?
本池:えっと、僕らの知っている範囲では4色あって、どの色もやっぱり独特で、
クーズーならではの色っていう感じですね。
ぱっと見たら「クーズーだ」って、革好きの方なら分かってしまうくらいの。
特に顕著なのがナチュラルの色なんですけど、僕もナチュラルが1番好きで多用していますね。
中島:なるほどね~。
今回AUBERGEの小林さんにお願いしてる別注のNESTの色が、
ベージュっぽいグレーというか、そういった色になるんですけど、
それやったらナチュラルが相性良さそうですかね?
本池:かなり適した色だと思います。もうそれ以外はちょっと考えられないくらいの。
ナチュラルが1番お勧めですね。
中島:やっぱそうですよね。
でもせっかくなんで、その4色とも一度見させていただいて、
そこからお客さんが好きなものを選べるようにするとかでも良いかもしれないですね。
本池:あ、そうですね。
ナチュラル以外だとブラックと、チャコールグレーみたいな色と、あとダークブラウンがあります。
どれも本当に素敵な色なんですが、その表面の傷がはっきりと出ているのがナチュラルなんですよね。
他のカラーは色が暗い分そこまで傷が目立たないんです。
なんでそこをお好みで選んでいただくっていうのが良いかもしれませんね。
中島:あとはそのニットが完全にハンドフレーム、手編みで編まれているんで、
もしよかったらそのエルボーパッチも手切りでお願いしたいなって思ってるんですよ。
本池:はい、せっかくなので。
僕も小林さんが作られるニットのお話を聞いた感じだと、
こちらもハンドカットというか、手裁ちが良いんじゃないかなと思いました。
手で裁断することで、1つずつのちょっとした歪みだったりだとか、そういったところの面白さが、
そのニットと上手く馴染んでいくんじゃないかなっていうのはイメージしてますね。
中島:うわ嬉しいなぁ。
そしたら本当に全部がハンド尽くしになるんですけど、ぜひお願いしますね。
本池:はい、かしこまりました。
僕も楽しみにしておきます。
いかがだったでしょうか。
ツールバッグに関しては、詳しく知ることで初めて気が付く魅力があり、
AUBERGEとの共作についても僕ら自身、本当に楽しみです。
どうぞこれからも、MOTOに注目し続けてみてください。