コードバンの新たな魅力
雨なんて気にせずに、コードバンを。
NORIEIの靴に出会って、コードバンへ対して持っていたイメージが大きく変わりました。
より美しい輝きを出すことを求めてきた、革のダイヤモンド。
そこへ飛び込んできたのは、輝きの「か」の字もないような、マットな質感の靴。
水や汚れも恐れずに、日常的に履くコードバン。
もしかしてこれはとんでもなく贅沢な遊びなんじゃないかな。
この革が放つ光沢感の魅力に取りつかれた方。
「扱いが大変そう」というイメージから、今まで距離を取ってきた方。
どちらの方にも手に取って、見ていただきたい靴。
今シーズンから取り扱いを開始したNORIEIの素上げコードバンシューズ。
今回はそのケア方法から魅力について、靴に関わる3人に話し合っていただきました。
NORIEIのことならこの方。リガメントの代表、高梨さん。
イベントで何度も力を貸してくださっている、シューケアメーカーR&Dの四垂さん。
そして当店のオーナー、革靴マニアでも有名な中島。
中島からの質問に、お二人に答えていただく形で進行していきます。
※会話中で出てくる「グレージング」とは、
なめした革をガラスやメノウのローラーで強く摩擦し、光沢を与える作業のことです。
中島:コードバンといえば、「雨にぬれると水ぶくれができてアウト」というような
水に弱いイメージが浸透していると思うけど、NORIEIの素上げコードバンは大丈夫って本当ですか?
高梨:確かに一般的な、綺麗にグレージングしたコードバンと比べると、水ぶくれは出来にくいです。
そもそも水ぶくれが出来るのは、水にぬれることで寝かされていた毛が起き上がるためなんですよ。
素上げのコードバンは初めから細かく起毛した状態ですので、その差ですね。
ただし濡れた状態で放置し水を吸収すると、その部分の色が濃くなりシミが出来てしまいます。
しかしこの対策は簡単で、定期的に防水スプレーをふってあげるだけで対応できます。
中島:じゃあこの素上げのグレーがかった状態をキープしたい場合は、防水スプレーをしておけばいいと。
四垂:そうですね。忘れないよう定期的スプレーをすることで、水はもちろん汚れからも守ってくれます。
実際にNORIEIの靴を履いているスタッフが実験的に試してみたところ、見事に水をぷるんと弾いていました。
初めの風合いを保つためのケアとしては、馬毛のブラシで汚れを落として栄養・防水スプレーをしていただくだけで大丈夫です。
中島:それでもスプレーのし忘れなんかでシミが出来てしまったときは、どうしましょう。
いっそのこと全体を色濃くしてしまうというのもありですかね?
高梨:それも1つの方法だと思います。クリームを全体に塗り込むことで色を均一にし、
そこから新たにエイジングを楽しんでもいただけます。
またはスエードのケアアイテムである「砂消しゴム」を使う手もあります。
素揚げのコードバンは極限まで短いとは言え、スエードと同じ起毛した革です。
砂消しゴムでシミになった部分をこすっていただくことで、毛が起きてきて馴染んでくれるんですよ。
中島:なるほど。毛を起こすことでまたグレーの色味に戻ってくれるんですね。
起毛した革、スエードと同じような感覚で扱えばよいと。
ここで中島が高梨さんの私物の靴を手に持ちます。
上の写真左側が新品時の素上げコードバン。右側が高梨さんが履き込んだ素上げコードバンです。
中島:この2足が同じ靴だというから驚きますよね。これは意図してこの状態になるようケアしたのですか?
高梨:ある程度までは最初の状態をキープして履いていたのですが、定期的にスプレーをしていなかったので
雨にぬれてシミになったり、汚れがついたりしてしまい、ならば毛を寝かせて整えようとクリームを使い始めたんです。
特別にツヤを出したかったというわけではないのですが、今は整えるケアへと変えていますね。
中島:なら初めからこの輝く状態にしたい場合は、最初からクリームを使っていけばいいの?
四垂:はい。ただし1度塗っただけでは、綺麗に毛が潰れていきなりツヤが出るということはありません。
ここまで差を出そうとすると、油分を入れながら数回重ねて作業を繰り返す必要がありますね。
ちなみに使用するクリームに関してなのですが、いきなり油分を多く含んだものを使うとムラが出来やすいので、
「クリームナチュラーレ」のように比較的油分の少ないものを使うことをお勧めします。
そして毛を綺麗に寝かせる作業で最終的に登場するアイテムが、「アビィスティック」です。
※アビィレザースティック:水牛の角を使用した皮革用スムーサー。
一見すると用途不明なアイテムですが、革靴のお手入れに絶大な効果を発揮します。
中島:なるほど、スティックを使ってハンドグレージングを行うのですね。
高梨:実は私達もこのスティックの存在を知る前は、実際の角を使って毛を潰していました。
こんな便利なアイテムがあると知ったときは驚きましたね。
四垂:まず馬毛のブラシでブラッシングして埃を取り除く。次にクリームを「ぺネレイトブラシ」で全体へと広げる。
最後にアビィスティックを使って、ツヤを出したい部分でハンドグレージングを楽しんでいただく。
この作業を繰り返すことで、ツヤのあるコードバンへと変化していきます。
中島:本来は革靴のソールを整えたり、コードバンの水ぶくれを潰すためのアイテムですが、
NORIEIのこの靴に関しては、自分でハンドグレージングするためのツールとして使用できるんですね。
再び2足の素上げコードバンをまじまじと見比べる中島。
中島:無理だろうなとは思うんだけど、ツヤを出した状態の物を、新品時のようなマットな状態に戻すことは可能なの?
高梨:それがですね、出来るんですよ。さすがにまったくの元通りというわけではないですが。
四垂:実は今日お持ちしたんですけど、少し粗めのサンドペーパーを使用するんです。
ツヤになった部分、つまり毛が寝ている部分を磨いていただくことで、
また毛が起き上がってくるんです。スエードに対してワイヤーブラシを使うイメージですね。
中島:マジで?
高梨:ケアが大変そうと言われるコードバンですが、
実際のところそうではなく、裏革ゆえに色々なことが出来るんです。
汚れや傷がついたらやすりで磨き、そしてまたスティックを使って毛を寝かせることで復活するんですよ。
表革の場合だとキズが付いたら、それをコーティングによって覆い隠すというケアになるじゃないですか。
しかしコードバンは磨いていくことで、キズそのものを無くすことが出来るんですよ。
中島:遊べるというと変やけど、色々と試せるんですね。
高梨:情報として、「コードバンは裏革です、スエード面です」ということを知っていても、
実際にお店に並んでいる輝く革だけを見ていると、なかなかピンとこないと思います。
このNORIEIの靴のように、実際に製品として手に取っていただくことで、本当にそうだったんだと分かっていただけるんです。
「コードバンって裏革だから、スエードと同じようにこういったケアをするんですよ。
水ぶくれができるのは毛が起き上がるからなんですよ、それなら潰せばいいんです。」といった話が
よりリアルにイメージしていただけるかと思います。
四垂:NORIEIの素上げコードバンに出会えたことで、
コードバンという革の表現の仕方が増えたというのは大きいですね。
今までは希少な革であるとか、独特のツヤが出てくるといったアプローチだったのが、
それ以外の魅力、「実はこんな扱いができるんだ」という楽しさが出てきたんです。
中島:表革とは違う楽しみ方、出せない魅力に気づかせていただきました。
ありがとうございます、大変勉強になりました。
神戸元町を拠点とする、NORIEIを扱うショップ。
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