【MOTO】MOTO LEATHERの魅力
ハンドダイやハンドステッチといった温かみあるプロダクトが多くの人々を魅了するMOTO。
今回はMOTOにてマネージャー兼デザイナーを務める、本池 良太 氏にお話をお伺いしました。
ブランドの歴史や世界観をはじめ、手染めの魅力やお手入れに関する細かいお話まで。
MOTOのアイテムをお持ちでない方でも、十分に楽しめる内容となっています。
どうぞお楽しみくださいませ。
・良太さん幼少期のお話
中島:今日一日ありがとうございました。そしたら、お話をお伺いしたいんですけど
本題に入る前に、良太さんの幼少期の話が面白いとお聞きしたんで
そこからお話しして貰っても良いですか?
本池:わかりました(笑)これは僕が小学生のときの話になるんですけど、
父に工業用ミシンの前に座らされて、自分が使うランドセルを自分で作りなさいって。
小学校2年生でミシンを踏まされて、ランドセルを一個自分で作ったんです。
まあランドセルっていう形ではなくて、本当にちっちゃいミニバッグって感じなんですけど。
しくしく泣きながらミシンを踏まされた記憶が今でも残っていて、トラウマっちゃあトラウマかもしれないです(笑)。
もちろん今となっては父に感謝していますけど(笑)。
中島:それは長男さんから?
本池:はい、大介も作人も僕もみんなありますね。
その時に作ったバッグが今も残っていて、北青山のお店に飾ってあるんですよ。
30年くらいたってるんで、すごく良い味が出てて(笑)。
中島:それって型紙とかあったんですか?
本池:なかったですね。
いきなり縫ってって言われて、それで縫ったらステッチがガタってなるじゃないですか。
ステッチ曲がってるわ、やり直しって言われて。
穴もあくんですけどそんなの関係なしに、もういけ!みたいな。
中島:親父さんちょっと変わってる?(笑)
本池:そうですね(笑)その時はもうめちゃくちゃ怖かったです。
ちょっと悪いことしたら、外に出ときなさいといった感じで。全然中に入れてもらえないことも。
ゲームとかも一切だめでしたね。もう全くダメでした。
他にもみんながナイキのスポーツバッグ使ってるときとか、自分はレザーのめちゃくちゃ重いカバンで。
それもまた自分で作らされて。そっちの方がカッコいからそれ使えみたいな感じに言われてたんですけど、
やっぱりナイキのバッグの方がそのときはかっこいいって思うんですよね。
みんなそれ使ってますし、自分だけレザーっていうのが、その当時はいやでしたね。
集合写真の時の服装も小学生って普通、スニーカーにジャージとかじゃないですか。
ぼくだけダブルのライダース着てたんですよね。
中島:小学生で?
本池:小学生で。かなり変わってますよね。
革靴にダブルのライダースにデニム穿かされて。
中島:それって、学校的にオッケーやったんですか?
本池家やからオッケーみたいな?
本池:そうですね、本池の親父さんだからしょうがないな、みたいな感じでしたね。
この間、父親が自分が小学生の頃の写真を出してきて、
まだ白黒写真だったんですけど、やっぱりダブルのライダース着てるんですよ。一人だけ。
中島:え、おじいさんの代からさせてたってこと?
本池:そういうことですね、おばさんがアメリカに50年くらい住んでいて、
そのおばさんが日本に帰ってきて、アメリカから家具とかを一式持って帰ってきたんですよ。
父親はそのおばさんに育てられたんです。だから本人もそのときにアメリカナイズドされちゃったんだと思います。
アメリカから買ってきた子供用のダブルのライダースを着させられて集合写真を撮らされたみたいで。
白黒なのに、ダブルっておかしいですよね。(笑)
まだ、周りは足もと下駄みたいな感じなんですよ、時代的には。
なのに一人だけ革靴でダブルのライダース着てる小学生が真ん中にポツンといて。
案の定僕も小学校のころ、同じスタイルで集合写真取らされて。
中島:大事にしてもらったんでしょうね。
三男やから可愛くて仕方なかったんでしょう。秘蔵っ子やね。
・MOTO設立と変遷
中島:そしたら本題に入りまして、良太さんが知っているMOTOの成り立ちに関するお話とか、
MOTOが大事にされている世界観や考え方についてお教えいただきたいなと思います。
本池:まずは父が1971年にMOTOを設立したのが始まりで、来年でちょうど50周年を迎えます。
当時は今のお財布とか靴という形態ではなくて、婦人用のバッグを中心に扱っていました。
中島:え!?最初はそうやったん!?
本池:はい、メゾンブランドみたいなバッグとか、クロコを使ったバッグ。そこからスタートしています。
まだお店もないですし、アトリエだけ構えて、お客様が一人ずつアポイントで来られるサロンみたいな形で、
そのときは「LEATHERARTS&CRAFTS MOTO」という名前でした。
25年後の1996年に、長男の大介がイタリアで彫金の技術を学んで帰国してから、
「LEATHER&SILVER MOTO」の名前で鳥取の米子に一号店を出しました。
そこで1つのレザーとシルバーのブランドになったわけです。
そこからスタートして、最初は大介が一人でお店に立っていたんです。
オーダーメイドでアクセサリーを作ったり、レザーのシザーケースを
スタイリストさんからオーダーいただいて作ったりとか。
すべて一点モノのワンオフみたいなことばかりやっていて、当時は定番というものがなかったですね。
そのときも靴はまだ作っていなくて、革小物とアクセサリーを中心にやっていました。
そのあと、次男の作人が大学を卒業してMOTOに参加しました。
作人は美大で学んだアカデミックな彫刻の要素を生かして靴をデザインしました。
そこで始まったのがMOTOの靴のラインですね。
父親から始まったMOTOですが、兄弟が加わることでどんどんファクトリーブランドとして進化していきました。
最後に僕が10年前くらいに参加したんですけど、そのときに今度はネットの方で幅を広げました。
今はフェイスブックであったり、インスタグラムが強いんですけど、当時はまだインスタもなかったですし、
自社のオンラインサイトやウェブサイトを強化したりとかそこからでした。
でも、実はそれまで僕は音楽をやってたんですよね。
中島:革とは全然関わりのないようなことしてたんやね。
本池:そうですね。バンド活動とかDJとか、PCで曲を作るDTMやCMソングを作る仕事とか。
基本的に毎日 PC作業をしていたので、元々デジタル系が得意だったんですよ。
遊びでデザインとかもやっていたんで、イラストレーターとか、フォトショップとかも独学で覚えていました。
その経験があったので、MOTOに参加したときからロゴやパッケージデザインなどのグラフィック関係を担当し、
ずっとパソコンの前に張り付いているという状態からスタートしました。ブツ撮りをやりながらカメラも覚えましたね。
そのあと店舗にも立ち始めて、いろいろできることの幅が広がりましたね。
現場に立ち始めてから6,7年くらいなんですけど、
接客やメンテナンスをしながら、お客様がいま何を求められているのかというのがダイレクトに伝わってくるので、
結局1シーズンの新作のデザインを自分が担当して出来上がっちゃったりとかもあって。
そういう経緯での今があります。
だから元々デザイナーになりたかったとかじゃなくて、自然にそういうこともやるようになったというか(笑)
中島:何でもできたから、みんなに任されたんやね。
本池:デザインを自由にやり始めたらけっこう的を得ていて、
お客様の反応が良かったりと、イメージ通りの結果に繋げることができました。
それが今で4年くらい続いています。
いつの間にかデザイン以外にイベントの企画や生産管理、ビジュアル、プレスみたいなことまで
すべて一貫してやっていましたね。
忙しいけど最初から最後までの流れが自分でつかめるし、今はそっちの方がやりやすいんですよね。
中島:一人でやってて迷わない?
本池:全然迷わないですね。むしろ現場に出てお客様と話すことで、
次こういうのがいいなっていうのが直観的に出てくるので。現場に出なくなったら分からなくなると思うんです。
本当にいいのか悪いのかというのは考え過ぎると分からなくなってしまうので。
僕の場合は「こういうのが反応良いから、次はこれが絶対いい」といった感じで繋げていきますね。
中島:素直に直感で行くんやね。
本池:この辺とかも実はそうなんですよ。色がグリーンのコードバンとか僕の発案したデザインです。
そもそもグリーンのコードバンなんて世の中になかったというのと、
緑色のコードバンって結構変態的な発想だと思うんですよ。(笑)
中島:今、ちょっと笑いましたね(笑)
本池:ははは (笑)。グリーンがあったらいいなというのが自分の中で常にあったんです。
ミリタリー系のグリーンというよりは、もうちょっと紳士的なグリーンで、ブリティッシュグリーンをイメージしています。
車のジャガーのボディの色って、こういう深緑色をしているでしょ。
ほんとグリーンは今までのコードバンの概念にはなかったんですよ。
やっぱり黒か、茶色か、バーガンディーか。飛び道具的な感じでもないですし、
スラックスで大人が履いてカッコいいカラーで落とし込むのが普通でしたよね。
それでこのグリーンコードバンを作ってみました。
そして前々回くらいから始まったグリーンコードバンですけど、
すでに黒をお持ちの方が2足目に買ってくださっています。
2足目で、同じ種類の色違いを買うという方が急激に増えました。
違う種類ではなくて、同じ種類で色違いを買うってなかなかないことだと思うんです。
中島:ないと思いますよ、珍しい。
この色味やったからこそよかったんでしょうね。
・手染めの魅力
中島:今度はその染め方ですね。
手染めについてお聞きしたいんですけど、革としては他とどう違うのか、
あと今回実演して頂いたような染め直しをすることで、どう変わってくるんでしょうか。
こういう風な細かい傷は消せるの?
本池:そうですね、消せますね。
あと、この履き皴のところが白くなるんですけど、ここも染め直すとパリッと引き締まります。
そういったところも補色ができる靴ならではですね。染料染めだから、退色と補色を繰り返せます。
顔料仕上げではただベタって重ねちゃうだけになりますので。
MOTOは染料で染み込ませるっていう所で、このようなグラデーションが出ます。
この緑色っぽくなっている中間色のような色。
この色は、染料仕上げじゃないと絶対に出せないんですよ。
中島:顔料仕上げでは出せへんのや。
本池:これが手染めならではですね。
ベジタブルタンニンなめしの革って濃くなるじゃないですか。
あれがタンニン特有の性質で、使っていくと自然に経年変化するんですけど、
MOTOのコードバンがそのベジタブルタンニンのコードバンなんですね。
なので、下地は次第に濃くなってくるんですよ。
その上から染料で染色してるんですけど、染料は色が抜けるので退色して薄くなるんです。
それが同時に進行します。
下地は濃くなるけど染料は抜けていく。そうやって混ざり合った中間色ができあがります。
中島:ああー、下の革は濃くなっていく、でも上っ面の染料は抜けてしもたんですね。
本池:そうなんですよ。完全には抜けきらないので、茶色なのに緑のような中間色に見えるんです。
これはこれで面白いんですけど、またこの上から染料を塗り足して、
染めて抜けて、染めて抜けてを繰り返すと、更に深みが増すんですよ。
濃い部分と薄い部分とのコントラストが綺麗についてくるんですね。
新品の状態とは全く違った表情になりますし、歩き方や環境、履く頻度によっても全然退色の仕方が変わってきます。
まさしくオーナー様だけの1点モノに育っていくわけなんです。
これが染料仕上げじゃないと出せない、手染めならではの魅力ですね。
・手染めコードバンのお手入れについて
本池: MOTOのコードバンは元々鏡面ではなく素上げ状態のマットコードバンなので、
できるだけマットなツヤ感を維持したいんです。
正直ワックスを使えば光らせることはできるんですけど、
厚化粧をしないでナチュラルなツヤに仕上げるのが理想ですね。
他の革靴はクリームで補色をするんですけど、
MOTOの場合はこの水っぽい染料を染めないといけないので、それがワックスに弾かれて邪魔されるんですよね。
クリーナーを使用したとしても、それまでせっかく育ててきた手染めの雰囲気を一気に壊すようにも感じたので、
極力ワックスは使わないようにとお客様にお伝えしてます。
そこがシェルコードバンの手入れとハンドダイコードバンの手入れの違いですね。
ピカピカに光らせずに、色のグラデーションだったり深みだったりとかを楽しむのが
MOTOのハンドダイの醍醐味なので、光らせることに関してはそこまで重要視していないんです。
これはあくまでもMOTOの場合であって、メーカーによってコンセプトや使う革の仕上げも全く異なるので、
結局は各メーカーさんが推奨しているメンテ方法が一番信用できるってことですね。
中島:一般的なイメージの、コードバン=ピカピカではないということですね。
本池:そうですね。なので実は、「鏡面」っていう言葉を一切インスタでもオフィシャルでも使わないようにしていて、
マットなツヤ感っていうよくわからない言い方をしてるんですよ。マットなのに程よいツヤ感みたいな。
なので、鏡面側からすると、分からないと思います。
その分からなさが面白いというか、どっちでもあるし、どっちでもないみたいな立ち位置のコードバンなので、
それも唯一無二の感じがしていいですよね。
鏡面みたいに光らせるのもいいとは思っているんですけど、
MOTOではそこに意識を向けさせないことにすごく気を付けてますね。
すごくシンプルに、デリケートクリームとブラシ、クロスの3点セットのお手入れをお客様にはして頂いて、
補色は自分たちに任せていただくのが、手染めの醍醐味である経年変化を楽しんでいただけると思います。
補色はすべてサービスでさせて頂いているので、
そのまま履いてこられたMOTOの靴をその場で補色なんてこともしています。
で、あとはこの紐ですね。
これも実は手染めで染色してる紐です。元々はベージュなんですけど、
これを黒の染料で染めるとチャコールに。それが退色するとミリタリーグリーンに。
紐までエイジングしてしまうというのが面白いってお客様にはおっしゃっていただいてますね。
・従来の財布と手染め財布の違い
中島:靴と同じように財布にも手染めのものがあると思うんですけど、
従来の財布と形は同じじゃないですか。使ってる材料は同じですか?
本池:同じですね、同じイタリアンカウハイドの革です。
中島:染料は一緒?
本池:染料は違います。従来の物はタンナーさんが染めたものになるので。
ベジタブルタンニンっていう鞣しでいうとほとんど同じ革ですが、染め方が異なります。
手染めでする後染めか、タンナーさんが最初に漬け込んで染めているかですね。
中島:なるほど、そしたらこっちの色はタンナーさんの色なんですね。
本池:はい、タンナーさんが染めたカラーになるので、
手染めの色の方がMOTOのオリジナリティっていうのは出ていると思います。
中島:これそしたら、経年変化で大きな違いは出てくるんですか?
従来のものと手染めの物でどのような違いがあるのかお教え願ってもよろしいですか?
本池:ではまず従来のタイプから。
タンナーさんが染めたものなんですけど、ざっくり言うと、経年変化のスピードが劇的に早く、
色も劇的に変わりやすいというのがこの従来の物ですね。
理由はタンナーさんでなめした状態で、ふにゃふにゃの革の状態から染み込ませてるんで、
染料も芯まで深く入り込んでます。
もともとツヤもそこまで出してないような牛革なので、使っていくことですごいツヤが上がるんです。
そのサンプルの通り、あめ色に変わったりとか。
逆に手染めの方は、ある程度上から塗りこんでるんで、経年変化でいうとスピードはすごくゆっくりです。
退色もするんですけど下地の革の経年変化の方がスピードが早いので、結果的には濃くなるという事なんですね。
結果でいうとどちらも濃くはなりますし、着地点も同じような色味に。
ただ、スピードが断然こちらの従来の物の方が早いです。
なので、色を劇的に使って変化させたいっていう方には、従来の物がおススメですね。
色味をキープしたいという方は、手染めシリーズの方がゆっくり色が変わってゆくので、
1、2年でちょっと濃くなったかなぁくらいの変化を楽しんでいただけます。
基本、この色をキープできますね、手染めの方は。
靴みたいに補色もできるんですけど、そこまで毎回補色をする必要もないですね。
靴は外気にさらされて、わりとお手入れが必要なんですけど、
お財布は基本ポケットやバッグに入れているのと、手の油分でオイル補給もされるんで
ほとんどお手入れする必要はないくらいです。
まあそこは革にもよるんですけど、これはMOTOのイタリアンショルダーっていう、
牛のダブルショルダーといわれるすごく肉厚の場所ですね。
コードバンとかとは全然また別ものなんですけど、そこそこ厚みもあってベジタブルタンニンで、
時間をかけて鞣された昔ながらの素朴な牛革で、銀面は特にシボとかもなく、ツルっとした仕上げにしてるのが特徴です。
中島:なるほど、エイジングの好みで選んでいただくといいわけですね。
あと今日お客さんから質問あったんですけど、男やったらこれから夏場ね、
人によってはお尻に財布を入れとくじゃないですか。ほんで、汗かくじゃないですか。
そのときに、退色しにくいのは従来のパターンか手染めかどっちなんでしょ?
本池:そうですね、そこは色の変化が遅い手染めですね。
中島:汗かいて、塩分入っても大丈夫?
本池:部分的に汗が入ると、シミっぽくはどっちもなってしまいますね。
そこに関しては色でいうと黒が一番目立たないので、汗をかかれる方は明るい色よりも暗い色の方がいいと思います。
黒かこのブラウン系、あとグリーンとかですね。やっぱりこの黄色が一番シミとかがつきやすいので、
汚れとか気にされる方は、黄色系はあまりお勧めできないです。
本当にきれいに使う方は無傷でエイジングさせることができるんですけど、もう袋に入れたりしてるんですよね。
お財布用の巾着に入れたりして。綺麗に色を変化させたいとの事で、そこまでしてくださる方もいらっしゃいます。
中島:今日聞いたお話を踏まえると、MOTOとしては人間が意図して手を入れ過ぎるよりかは、
革本来の表情を楽しむというのが求めるものなんでしょうか?
本池:そうですね、手を入れても本来の良さを活かすような手の入れ方だったらいいんですけど、
エイジングの良さを消してしまうようなお手入れはあまり望みません。
今日バイクに乗ってきてくださった方のブーツがすごく良い自然なエイジングで、
約7年間、全くのノーメンテ状態でした(笑)。
わからない人から見たら、ボロボロに見えると思うんですけど、自分たちはそこに美学を感じてしまうんです。
革本来のエイジングの良さを楽しんでいただきたいですね。
中島:なるほど、MOTOらしさを感じる考え方ですね。しっかりとお客さんに伝えられるようにします。
本日はありがとうございました。
本池:こちらこそありがとうございました。