【AUBERGE】LEVIS Custom
6月22日と23日。2日間に渡って開催した『AUBERGE Custom Order Fair』。
イベントを終えて、デザイナーの小林さんにあらためて「LEVIS Custom」についてお伺いしました。
中島:まずは2日間、ありがとうございました。
今回のイベントを終えてですけど、全体的に好評だった中で、
お客さんがこれ目掛けて来てくれたんやなと思うことが多かったのがやはりあのデニム、
バレンシア工場の501XXだったんですよね。
小林さんが最初にあれをやろうと思ったきっかけというか、
なんであの発想が出たのかをお聞きしたいんですけど、よろしいですか?
小林:こちらこそありがとうございました。
最初はですね、僕の友達のディーラーが「面白いものがあるよ」と言って、
ある程度本数のまとまったもの(バレンシア製LEVIS 501XX)を提案してくれたということがあったんです。
それで届いたものを見たんですけど、もうほんと驚いたんですよ。
今まで散々XXばかり見てきた僕が見ても「うわっ」って思うほどに。
中島:それはやっぱり色落ち、雰囲気といったところでですよね。
小林:そうですそうです。細かいディティールとか、ポケットの形みたいな、
レプリカとして輪郭を真似て作るのは意外と簡単なんですけど、
最終的なオーラっていうのはやっぱり気付くじゃないですか、なんとなく違うなって。
でもその「なんとなく」まで、それは埋まってたんですよ。
小林:ていうのでこう、これは何とかならんかと。
そう思って試しに穿いてみたところ、やたら小さかったんですよね。
シュリンクトゥフィット、要するに「洗って縮めて体形に合わせてね」っていう、
その通りの作り方なんで、がっつり縮んでたんですよ。
そこでこう、これだけ良いけど実際に喜ぶ人は少ないだろうなと思って。
中島:個体としては良いけれど、実際に穿くことができないからですね。
小林:はい、やっぱりある程度、ワンサイズアップくらいで穿くのが良いじゃないですか。
当時、90年代はそれこそピタピタで穿くなんてことも多かったんですけど、
今それをするのは少し違うと思うんで。
てことで、これはどうにかならないかなって、夜中にいろいろと分解しだしたんですよ。
中島:なるほど、その時点で始まったんですね。
とりあえず潰してみたろかってとこから。
小林:それでたまたまなんですけど、そのタイミングで雑誌のデニム特集なんかがあって。
ちょっとお勧めデニムを紹介してほしいみたいな依頼があったんですよね。
で、うちのAUBERGEデニムはそういった媒体にもうほぼ出し尽くしちゃってたから、
じゃあ代わりに何が良いだろうってなって。
それでその時点ではもう、次はブーツカットがいいぞとか、そういう新たなネタもあって。
加えて僕は1晩あれば501をブーツカットに出来ちゃうわけですよ。
で、「分かった!じゃあ最新、流行の形をこの素材をもって作ってしまおう!」
っていうようなことを考えたわけです。笑
中島:はは~。なるほどね。
小林:それで3日間くらいかけて、LEVIS 646のベルボトム風XX、
要するにウェストもでかいし裾もでかいやつを作ったんですよ。
原宿、渋谷の若者がでかい646をウェストをぎゅっと絞って穿くっていう、
まあ正しく穿かない!みたいなのが流行っていたことがあって、
その辺の90年代の後期感が今ぴったりだと思って作っちゃったんです。
それからなんかこう、「この時代のこの感じ」っていうのを、
バレンシアベースで形を変えさせていくっていうのが僕の夜中のマイブームになっちゃって。笑
中島:夜中のマイブームですか。笑
楽しくなっちゃったんですね。
小林:ウェストもっとでかくしたりだとか、裾幅広げちゃえとか。
いっそもうグッとサルエルみたいにしちゃえとか。
色々な実験モデルが沢山あったんだけど、それをうちのお客さんに見せたらもう、
みんな目を輝かせちゃって。
面白いねっていうのと、あとはやっぱりオーラですよね、XXの。
あれはほんと裏切らないんですよ、男みんな大好き。笑
股上あげたり、わたり出したりってことをすると今っぽくなるわけですよ。
あとそれで腰回りもすごく楽になるんで、スッと穿けちゃうっていう。
なので90年代にあの感じに憧れて、そこから20年経った大人が
今穿いたときに凄くフィットするんですよ、気持ちも含めて。
「わあ、またこんなの穿けるんだ!」みたいな風になっていただけるんです。
というので、うちのお客さんに要望を聞いて、じゃあ作りますよなんて言って色々やって。
こう何ていうか、服を買い飽きてしまった人達への刺激物としては最高だったんですよね。
中島:なるほど、洋服難民の人たちへね。笑
でもあのディティールってね、ハギにしても、ちょっとなんかどこから発想を得たというか、
どういう風にしていったらああなったんかなって不思議なんですよ。
小林:あれはもう、501のパターンを熟知すると分かるようになるんです。
中島:と言いますと?
小林:結局、耳付きの501って、こう両サイドを耳でまっすぐ取りますよね。
ということで、もうここの型紙がまっすぐに固定されてしまうんですよ。
でも人間のお尻って丸いじゃないですか。
てことはダーツを取らなきゃいけないんですよね、お尻に沿わせるために。
INCOTEXのパンツなんてグイングイン曲がってますから。
あれはお尻を綺麗にくるもうと思ったらああなるんですよ。
確かに501なりには頑張ってるんですけど、
その頑張るダーツが全て脇線のカーブだけなんですよね。
だからなんかこう、30インチとか小さいサイズを見ると少しいびつな感じがするんですよ。
で、要はその1か所だけで取ろうとしているところに、三角マチを入れて
ガっと広げてやるんですよ。それで全体が楽になる。
1番寸法が欲しい欲しいって言ってるところに入れていってるんです。
中島:なるほどなぁ。
素直に動きやすくなるところに、素直に入れた結果がああなるんか。
小林:そうですそうです。
だから大きくする個所、できる個所っていうのは、
やっぱり人間が実際に穿いてて一番欲しい個所なんですよね、パターン的にも。
それは全部501耳付きってやつの宿命で、あれはあそこに入れるべきなんですよね。
だから畳んだときにもけっこう普通で、穿いたときにも違和感がないんです。
中島:それっていうのは頭の中に先にイメージとしてあるんですか?
こうしたら穿きやすくなるから、こうしたら良いっていうのがもう出来上がってるんですか?
それとも実際にやりながら分かっていくもん?
小林:ここだなっていうのは先に分かってます。
ずっとジーパンの型紙を引いてると分かるんですけど、どこで個性を出すかってなったらあのカーブなんで。
結局いじる個所はそこなんですよね。
中島:そうなんですね。
小林:ええ、出来ることは限られてるんですよ、ああいう耳付きジーパンって。
ほんと難しいんですよね、あの世界で個性出すの。
でもその完成形から新たなフォルムに変えるってなったら、マイナスな部分って言うんですかね、
縮み過ぎている部分であるとか、そういう所にこう余白を入れていく、足してやるんですよ。
それをすることで、格段に穿きやすくはなるんですよね。
小林:ただ洋服って寸法を詰めることはあっても足すってことはまあ無いじゃないですか、
お直し屋さんとかであっても。だから僕のは「魔改造」って言われてるんですよね。笑
中島:え、魔改造ってなんです?笑
小林:魔改造っていうのはあの、「本来やってはいけない改造」っていう、
フィギア業界とかで使われる単語なんですけど。
だからこう、やっていいことと悪いことのギリギリのところというか。
まあそんなところで結構盛り上がってて、局地的に。笑
中島:確かに全部捌いちゃってるんですもんね?笑
ぶっちゃけあれ1本、全部ご自身でなさってるじゃないですか。
何時間くらいかかってるんですか?例えば初めて作ったときとか?
小林:最初は結構「どう解くのか」っていうところからってのもあるので…。
うーん、最初は2日まるまるくらいはかかったかなあ。
中島:丸2日?!
小林:試行錯誤が一番きついんですよ。要領が分かってきたらそこからは早いんですけど。
全てそういうものだとは思いますけどね。
「ここをこうしたらこうなる」っていうのを思いつくまでは苦しいですけど、
分かってしまえばトントンいきますね。
中島:こういう場で聞くのは嫌らしいんですけど、次何か狙ってるのはあるんですか?
バレンシアでも他のでも個体はなんでもいいですけど、デニムをこんな感じでいじってみたいなっていうの。
こんなんやったら面白いんちゃうかなとか、
例えば昔こんなカスタムやったけど今やったらこうしてやるみたいなんとか。
小林:デニムベースでってことですよね。
うーん、もっともっとこう、「アート」寄りな方にいきたいっていう思いはあるかもしれないです。
これから人間が価値を見出せるのって、なんかもうアート的な、理由のないところだと思うんですよね。
中島:付加価値としてのアートということですか。
素材が良いとかどうやこうやと違って?
小林:アート感をプラスと言っても、身頃にグラフィックを入れる的な話ではなくて、
着ることに創意工夫が必要な服とでも申しましょうか…。
現状のバレンシアカスタムは履きやすさと、
必要箇所に寸法をプラスすることで「今を感じるシルエット」に格上げすることが目的なんです。
まぁここまででしたら、さほどXXの歴史から逸脱したデザインにはなってないと思うんです。
なのでここからは、グッとアーティスティックだった、出始めの頃のREDやマルジェラ的な
early2000年代のイメージを更に増幅させてバレンシアをいじくり倒してみたいんですよね。
面白い造形物、着るのにエネルギーを要するパンツ。
その心地よい疲れが逆にエネルギーとなってアガる!ここまで出来たら本望です。笑
中島:なるほど、そしたら今まで耕してなかったところの人たちにも届き始めるんですね。
小林:なんかそういう、「古着好き」とか「アメリカンカルチャー好き」とは
また違った人たちへのアプローチへと発展していくような…。
ただやっぱり素材としてはあのバレンシアの雰囲気っていうのはお宝なので、
どんどん数は減っていくだろうけど使い続けていきたいですね。
中島:でもどうなんですか。言葉にするとアートですけど、形にするとなるとなかなかこう、
例えば今回のイベントでも「Beastie Boys」のTシャツ貼ったサンプルとかもありましたけど、
なかなか差別化というか、難しいじゃないですか。
もちろん万人に受けるものじゃなくていいと思うんですけど、
もっとモノに寄せていくのか、人に寄せていくのか。
どっちのアートなんですか?イメージしてはるのは。
小林:そうだなぁ。
ある程度カッコイイだったり、次の流行を占うシルエットだったり、
そういったものに目の前の物体をいかに近づけていくかっていうのも楽しみなんですけど、
「面白いね」と言ってくださる人たちの顔を思い浮かべながら処理をしていくのも好きなんですよね。
だからどちらかと言うと人寄りなのかな?やっていることは古典的な注文服な訳だし。笑
逆に、人の要望なぞ我関せずで、ひたすら自分の道をいくっていうのが「ファインアート」の芸術家だと思うんですよ。
ただ1つ「これは」って思うのが、
素材であったりブランドの歴史だったりなんだったりで、「1番いい時期の物」を常に使っていきたいわけですよ。
でもそれを「正しく」使わなくてもいい気がするんです。
気分でハサミ入れてもいいのかもしれないし。笑
そこはもう全ての非難を受けつつも、
最後は「まあ小林くんだから仕方ないや」って言ってもらえるところまで、高みに持ちあげたらいいのかなって。
中島:さっきの魔改造と一緒で、ぎりぎりのことして人を喜ばせたいんですね。笑
でもなんか「アート」っていう風な単語を久しぶりに聞きました、デザイナーさんから。
デザイナーがアートっていうのは、近いようで遠いと思ってるんでね、僕。
それを「商品」で、しかもデニムでってなるともうどんなんをイメージしはるんかなって。
今回イベントをさしていただきましたけど、僕ほんとにデニムっていうのは手が出せないジャンルやったんですよね。
僕もずっと古着を触ってた人間として、やっぱりちょっとアンチなとこがあるんです。
どうせやったら「ほんまもんのヴィンテージ穿こうぜ」っていう。
けど小林さんの今回のバレンシアのああいったカスタムを見て、
やっぱりちょっと変わりましたね、柔らかくなれた。
だからこそ小林さんの思うアートってどんなんやろって。
またこれから色んなことあると思うんですけど、
また良いのができたらぜひ見せていただきたいなって思いますね。
小林:もちろんです。
僕は今そこに向かって爆走してるので。笑
いかがだったでしょうか。
ますます目が離せない小林さんとAUBERGE。
今後にもご期待ください。